母乳育児の「標準範囲」とは?

新米のお母さまの場合、ご自身の授乳体験が普通かそうでないかを知ることは難しいです。そのため、専門家の方に「標準」的な授乳というものが本当にあるのか尋ねました

What is normal in breastfeeding?
Medela expert Jacqueline Kent
Dr Jacqueline Kent , Research Fellow , Hartmann Human Lactation Research Group:
Jacquelineは、1986年に西オーストラリア大学の研究グループに加わり、1999年に博士号を取得しました。現在彼女は生化学と生理学的観点での母乳合成と母乳停止についての研究を行っており、お母さまがより長く授乳できる手助けをするように科学的情報に焦点を当てています。

Jacqueline Kent 博士とその研究チームは、数年に渡って母乳育児について研究し、母乳育児はお母さまと赤ちゃんごとに違うことを発見しました。

どの発見に最も驚きましたか?

ばらつきです。「標準」の範囲は広大です。私たちは、赤ちゃんは1日あたり8~12回おっぱいを飲み、1週間あたり体重が150g 増えると育児書などに書かれていることにあまりにも慣れていました。しかし、赤ちゃんは育児書を読んだことはありません。自分のことを自分でやるだけです。もっとゆっくり成長する赤ちゃんもいれば、もっと早く成長する赤ちゃんもいます。

完全母乳の1~6か月の赤ちゃんに関する研究では、赤ちゃんは一般的に1日あたり4~13回おっぱいを飲み、毎回の授乳にかかる時間は12分~1時間近くの間でした。1

母乳育児の赤ちゃんは母乳をどれくらい飲みますか?

私たちの研究では、1回に少なければ54ml、多ければ234ml 飲むということが分かっています。1

お母さまは赤ちゃんが十分に飲んでいると思っていても、非常に少量の母乳しか飲んでいないことが分かって驚くことがあります。また、赤ちゃんが何回もおっぱいから滑り落ち、わずか数分しか飲んでいないのに、100ml 摂取していることもあります。そのため、注意力が散漫なことは必ずしも母乳の全摂取量が少ないということではありません。

赤ちゃんは一人ひとり違いますが、みんな必要なものを摂取できています。1日にぴったり500ml 飲む赤ちゃんもいれば、1日に最大1,356ml 飲む赤ちゃんもいます。

また、平均すると、男の子は女の子よりも1日あたり76ml 多く飲むということをご存知でしたか? お母さまの母乳量が適切であれば、赤ちゃんは自分で予定を組みます。

おっぱいは片胸からあげるべきですか?または両胸からあげるべきですか?

私は、片胸から授乳したら、もう片胸からも授乳することをお母さま方にアドバイスしています。赤ちゃんが受け入れるのであれば、素晴らしいことです。明らかにもっと欲しがっているからです。しかし、赤ちゃんが欲しがらなくても心配しないでください。赤ちゃんのペースで欲しがるだけ飲ませてあげてください。私たちの研究では、30パーセントの赤ちゃんが完全に片方のおっぱいだけから飲み、13パーセントはいつも両方から飲んでいます。過半数の赤ちゃん(57パーセント)はこの二つを組み合わせていることが分かりました。

赤ちゃんが十分な量の母乳を飲んでいるかどうか、どうしたら分かりますか?

私の経験では、お母さまは十分な母乳を出せていないことに罪悪感を感じ、心配することがよくあります。ご自身に聞いてみてください。赤ちゃんの体重は増えていますか? 赤ちゃんは集中できていますか? 赤ちゃんの顔色は良いですか? おしっこやうんちはちゃんと出ていますか? これらのすべてが当てはまっていれば、赤ちゃんの授乳時間の長さに関係なく、十分な母乳が出ていますので安心してください。

お母さまになる人の授乳に関する最大の誤解は何ですか?

お母さまは赤ちゃんが大きくなるにつれて、24時間あたりに必要な授乳の回数や母乳の量が増えると考えがちです。このようなお母さま方は、すべてが普通に進んでいる場合、4週目~26週目の間は合計母乳分泌量に変化がないことを知ると非常に驚かれることが多いです。2

最初の数か月間、赤ちゃんは急速に成長し、新陳代謝率も高いです。摂取する母乳は、ほぼすべてが成長と代謝の維持に充てられます。

そして、3~6か月目は新陳代謝率が低下して成長速度も遅くなるため、同量の母乳で満足できます。これは、赤ちゃんが大きくなるにつれて母乳摂取量を増やす必要はないことを意味します。事実、授乳の時間は短くなって回数も減りますが、以前よりも効率的に飲むことができているため、同量の母乳を摂取し続けています。

研究では赤ちゃんが一晩中寝るようになる時期はわかりましたか?

赤ちゃんの多くは夜中も母乳を飲みます。赤ちゃんの胃の容量は一晩中授乳せずにすむほど大きくなく、母乳はとても速く消化されます。そのため、当然赤ちゃんは夜中におなかを空かせて目覚めます。生まれて最初の6か月間は続きます。夜中の授乳は普通です。夜中に起きて授乳することは、同じ月齢の赤ちゃんがいるお母さまみんなが体験していることなので安心してください。数か月間だけ夜中の授乳対応が必要です。1

授乳を始めてから最初の数週間でお母さまにとって最も心配なことは何ですか?

最もよくある心配は、赤ちゃんがきちんと吸いついて飲んでいるか、赤ちゃんが授乳後、満足しているかということです。乳首の痛みについて心配することもよくあります。重要なことは、最初から授乳姿勢とくわえ方を修正してもらうことです。なぜなら、これによって母乳の流れとお母さまの快適さの両方が大きく変わるからです。

母乳育児が普通ではないと心配すべきなのは、どのようなときですか?

お母さまの母乳は2週間で完全な量に達します。産後5~6日目までに赤ちゃんの体重が戻り始めない場合は、注意が必要です。医療機関を受診して、医療従事者に母乳が出ているか、その成分が初乳から成乳に向けて変化しているかを確認してもらう必要があります。

新米のお母さまに母乳育児についてアドバイスするとしたら、何をアドバイスしますか?

出産したらできるだけすぐに赤ちゃんと肌と肌のふれあいをしてください。可能であれば、1時間以内に授乳をするか、少なくとも赤ちゃんが吸いつくように促してください。乳首が傷つかないようにできるだけすぐに、授乳姿勢と吸いつき方の確認と修正をしてもらってください。

頻繁に授乳してください。新米のお母さまはいつも赤ちゃんのサインや泣き声を読み取れるわけではありません。定期的な間隔を決めるのではなく、必ず赤ちゃんが欲しがるときに授乳してあげてください。空腹のサインがあればすぐにおっぱいをあげてください。赤ちゃんは落ち着いているときの方がうまく飲むことができます。赤ちゃんは泣いていると、吸いつきにくくなります。分からない場合は、おっぱいをあげてみてください。赤ちゃんがすぐに欲しいか欲しくないかを教えてくれます。

Kent 博士の研究成果の概要については、インフォグラフィック赤ちゃんの哺乳行動の「正常範囲」とは?をダウンロードするか、以下をお読みください。

インフォグラフィック: 授乳における「標準」とは
参考文献

1 Kent JC et al. Volume and frequency of breastfeedings and fat content of breast milk throughout the day. Pediatrics. 2006;117(3):e387-395.

2 Kent JC et al. Longitudinal changes in breastfeeding patterns from 1 to 6 months of lactation. Breastfeeding Medicine. 2013;8(4):401-407.

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